観光2:初めての新生祭
ウルダハはもう夜だった。いつもと違う音楽、花火の音が街に溢れている。
ルビーロード国際市場に面した壁側にアトラクション用の舞台が作られていた。その脇に、異邦の詩人と名乗る人が立っている。
Lv15.新生祭と新たなる旅路
「やあ、君は冒険者だね? その目を見れば、いい旅を続けているのだとわかるよ」
そう声をかけてくれた。
「おっと失礼…僕は、冒険者の活躍を詩にしている者でね。異邦の詩人なんて呼ばれている」
彼は少し考え、「ふむ…ちょうどいい。もしよければ、冒険者としての君に、頼みごとをしたいのだけど…どうだろう?」と尋ねた。
何がちょうどいいのだろう?私は首を捻る。
「実は昨今、冒険者を志望する人が増えてきていてね。もちろんそれはとても喜ばしいんだが…ウルダハは生き馬の目を抜く商人の街だから、何もわからない新人冒険者が面倒事に巻き込まれないか、少し心配なんだよ。そこで、信頼できる冒険者に、案内役を頼んでみようと思い立ったのさ。君なら安心なんだが…引き受けてくれないかな?」
私もまだ初めたばかりの新人ですが、いいのでしょうか。頷きつつ不安もある。
「ありがとう、助かるよ! …おっと、そうこうしているうちに、チョコボキャリッジが着く頃合いだ」
ナル大門で待機して、冒険者志望の若者が通ったら、声をかけてという指示をもらう。
「うまく見つけられるか心配かもしれないが、大丈夫。初めて都市を訪れる若者というのは、たいてい周囲を見渡すものだから、きっとすぐにわかるさ。ふふ…君もそうして、声をかけられた経験があるんじゃないかな? …それじゃあ、よろしく頼んだよ!」
ウルダハに初めて来た冒険者はみんな同じことをするのだな…。
門の内側で、それに当てはまるような若者がいないか見回す。すると、私が初めてこの国に来た時と同じようにして、クイックサンドの建物を見上げながら歩いてくる若者がいた。
拳聖ハモンが着ているのと似た服装で、随分逞しく見える。左耳の上にフレンドシップサークレットに似たアクセサリをつけていた。
「ようこそ、ウルダハへ!」
きっと彼に違いない。私は声をかけた。もしかしなくても、私は今ワイモンドと同じことをしている。ワイモンドほど口は悪くないが。
冒険者を志す若者は驚いて私に目を向ける。事情を説明すると、ほっとした様子だ。
「それ、助かるよ…なんせ俺、こんな大都市は初めてでさ」
彼の名前は、ナギ・ア・ジャッキヤ。通称はナギらしい。冒険者になりたくて、辺境から出てきたとのことだ。冒険者になるためにギルド登録が必要ということも知っている。私よりよほどしっかりしていた。
クイックサンドの場所を教えると、「ありがとう、行ってみるよ!」とすぐに走り出した。
後を追って様子を見にいく。ナギはまだフロアにいて、緊張しているのか深呼吸をしていた。
「あ、さっきの…もしかして、心配で来てくれたのかい? 正直ちょっと緊張してたから…横に居てくれると嬉しいよ」
素直な人だ。二人でモモディのところへ行く。ナギは十六歳だという。冒険者ってそんなに若いうちからなるものなのか。驚いてしまった。
大きな声で挨拶をしたナギに対して、モモディが「あら、元気がいいこと!」と微笑む。
「それじゃさっそく、書類にサインをしてくれる? あなたにお仕事を頼む時も、お墓をつくる時も、名前の綴りがわからないと困るもの」
いつかも聞いたお約束の台詞だ。締めは「人生相談はお断り。恋愛相談なら考えてあげてもいいわ」である。
途惑うナギに、多分いつもこうだよと教える。モモディは踏み台の上で笑っていた。
「そうねえ、めったにない機会でもあるし…。ナギ君、あなた、彼と少しお話ししてみたら? なにせ彼は、冒険者としての先輩だもの! その助言は、聞いておいて損はないはずよ」
まだまだ先輩風を吹かせられるような経験をしていないが、都市内の案内くらいはできそうなので、任せてよと言ってみる。
モモディの提案で、ナギから話を聞き、彼に合うウルダハのキルドを勧めることになった。
クイックサンド西側出口のベンチにナギは座っていた。
「ちょっと緊張するけど…俺のほうは、いつでも大丈夫だよ!」
それじゃ…隣、いいかな?と断って、ベンチに並んで座る。少し気恥ずかしいがインタビュータイムだ。
どうして冒険者になろうと思ったのか尋ねる。この質問、ブレモンドさんにされたやつだ。
「あ…それ、チョコボキャリッジに乗ってた、商人のおっさんにも聞かれたよ」
やっぱり!
ナギは「そのとき俺、うまく答えられなかったんだ」と俯いた。
「故郷を出たいって想いは、確かにあったけど…うまく言葉にできなくて。でも、ウルダハの街並みを見て、わかった気がした。きっと俺、知ってみたかったんだ。見える景色の先に何があるか、それがどんなものなのか…自分自身で触れて、さ」
想いを言葉にできるようになったナギは顔を上げて、まっすぐにこちらを見る。
「Moneliは、いろんな場所を旅してきたんだろう? やっぱり、旅っていいものだと思うかい?」
これは同じ冒険者でも、本当に長い時間旅をして、いろんな都市や地域に行って、さまざまな人々と触れ合ってきた人が答えるべき質問だと思う。
初心者でも旅は好きだし、まだ見ぬ土地を思うと心が躍る。だってまだ見ぬ土地ばかりなのだ。
「やっぱり! 冒険者になるヤツって、みんなそうなのかな? …俺、歳の離れた姉貴がいてさ。第七霊災の時に、姉貴に連れられてグリダニアを出て、山間の小さな村に避難したんだ。そこは、世界情勢から切り離されたような田舎で…ずっと村の外へ、旅に出ることを夢見てたんだよな」
初めから外の世界がないような田舎にいたのなら、村の外を知らないまま想いを馳せることもなかったかもしれない。外があることを知っていたら、興味が高まるものだろう。
「ただ、旅を日常とするには、俺には力が足りない。だから…そのために役立つ場所があるなら、紹介してくれないかな?」
旅を日常にしたいのであれば、まずは自分の身を自分で守れた方がよいだろう。私はファイターやソーサラーのギルドを勧めた。
「なるほど、戦闘術を学べる場所か。ウルダハにあるのは格闘士に剣術士…それから呪術士のギルドだっけ。それなら俺、格闘士ギルドを選ぶよ! 昔から体を動かすのが好きで、身のこなしにも自信があるんだ!」
ひとりで平気か尋ねると、彼は深く頷いた。
「大丈夫、頼りきりじゃ冒険者なんて名乗れないさ」
十六歳、しっかりしてるなぁ。私たちは後でまた会う約束をして、走っていくナギの背中を見送った。
しばらく経ち、同じ場所で待ってみたがナギは戻ってこない。格闘士ギルドで話が盛り上がっているのかな。一応自分も格闘士なので、ギルドへ様子を見に行ってみる。
「フォッフォッフォ…ナギよ。素晴らしい連撃じゃったぞ! お主を見ておると、昔のワシを思い出すようじゃよ」
「ありがとうございます、ハモン師匠!」
「師匠、新しい弟子ができてよかったわね! …でもナギ、あんまりこの人をおだてすぎちゃダメよ?」
ギルドに三人の賑やかな笑い声が響いている。やっぱり盛り上がっていただけだ。格闘士はナギに合っていたようで、勧めたことに感謝された。
「おお、Moneli、お主がナギを紹介してくれたのか! なかなかに筋がよくて、先が楽しみじゃよ」
鍛錬を積んだ後の次の修行の話をしている。クラスクエストですね、とにこにこする。
「待たせちゃったみたいで、ごめん。教えられるがままに連撃を繰り返してたら、夢中になっちゃって…。そうだ、修行中に怪しげな詩人に声をかけられたんだ。冒険者として歩み出す決意が固まったら、最初の依頼をしたいから来てくれ、だって」
異邦の詩人さんのことだろう。私も一緒に、という話だったので早速ルビーロード国際市場へ向かう。再び舞台の脇に立っていた異邦の詩人を見て、ナギは怪しげな詩人に間違いないと言った。
「やあ、見事に案内役を務めてくれたようだね。君に頼んで、本当によかった」
「えっ…!? てことは、Moneliが声を掛けてくれたのは、この人から頼まれたからだったのか!」
そういう言い方をされると何故か後ろめたい気持ちになるのだが。
「実は今エオルゼアの現在をテーマに詩を考えているんだ。そこで、増え続ける冒険者たちに注目していたんだが…ふと先輩冒険者との出会いをプロデュースしたくなってね。そうして、君たちの姿を見守らせてもらっていたら、詩作のヒントが得られたんだよ!」
プロデュースの話は私も聞いていなかった。
「先輩冒険者である君は、過去の経験を通じて、新人のナギ君を導いていた。当たり前だが、現在は過去の先に存在していたのさ! つまりそれは、エオルゼアの現在を詩に切り取るなら、過去についても再認識しておく必要があることを意味する」
なるほど…? 詩人さんは、過去を踏まえるためにエオルゼア新生の発端である第七霊災ゆかりの品を探して、その品に秘められた物語とともに持ち帰るよう我々に依頼した。
「初めての依頼…宝探しみたいだ!」
ナギは乗り気だ。やってみよう。各自で一つずつ見つけたら、ルビーロード国際市場の奥に集合と決まった。
「君たちが何を選ぶか、楽しみにしているよ」
ナギと私はサファイアアベニュー国際市場で合流し、一緒に見て回ることにした。これを同行と呼ぶらしい。目的地までの経路付近に、特殊な会話を聞くことができるトークスポットが存在する場合があるそうだ。仲間との寄り道を勧められた。
「第七霊災にまつわる品物か…宝探しみたいで、わくわくするよ!」
早速、料理屋カテリーヌの前でナギは「あっ、うまそう! ザナラーンの郷土料理かな…?」と興味を示した。
「Moneliは、いろんな土地に行ったんだろ? 変わった料理、たくさん食べてるんだろうなあ! あの有名な、エオルゼア三大珍味とか…?」
ザナラーンしか知らないし、ザナラーンに珍味があるのかも知らない。申し訳ない…。
本題に戻って、斜向かいのアクセサリ屋ロロヌに求めているような品がないか尋ねる。
「第七霊災にまつわる、曰く付きの品…。でしたら、こちらはいかがでしょう? イシュガルド由来の、アメジストの指輪です。五年前、カルテノーの戦いの折…援軍派兵を拒否した祖国イシュガルドの方針に異を唱え、義心のままに駆け出した、若き神殿騎士たちがいたそうです。しかし、彼らはカルテノーにたどり着けなかった。道中、竜に襲われる商人を目撃し、助けようと戦いを挑み、命を散らせたとか…。この指輪はある騎士の家に伝わる由緒ある品のようです」
「そんな出来事が…。でもそれ、騎士が全員死んだなら商人も無事じゃないよな? 誰が指輪を持ち帰ったんだろう?」
ナイス、ナギ。ロロヌは慌てふためいてエピソードを追加した。
「若き騎士は竜と相打ちになったのです! 商人に家宝の指輪を渡して、息絶えた…そうに違いありません!」
そして割引価格を提示された。ナギは「う〜ん、ちょっと怪しいけど…」と悩み、ひととおり回ってから決めることにした。他にも面白い品があるかもしれない。
マーケットボードのあたりに人だかりができている。
「このガラス絵の逸話 私、好きなのよ…」
「なんと繊細な…!」
壁に一幅の絵が飾ってある。あれがガラス絵なのだろう。中央上に描かれているのはナナモ様のようだ。その周りに赤いローブの呪術士が四人、黒いローブの呪術士が一人、これは呪術士ギルドの五兄弟に違いない。手前に剣術士らしき装備の二人、ナナモ様についているならパパシャンだろうか。銀冑団装備をつけているし。現役時代かな。もう一人はまだ知らないララフェル族だ。
「足を止めてくれてありがとう。何か、気になる品はあったかい?」
ジャ・ベン・ティアという人が声をかけてくれた。ナギが第七霊災にまつわる作品がないかと訊く。
「ちょうどいいのがあるよ…! 第七霊災の出来事をモチーフにしたガラス絵さ! 第七霊災の折、ウルダハでは、衛星ダラガブが頭上に迫ったことで、不安にかられた市民が暴徒と化したんだ。そんなパニックを鎮めたのが、ナナモ様さ。たった七人の護衛を伴い、混乱の渦中にある人々に語りかけた。『倒れた者の財を奪うのではなく、助け起こして共に財を築くことを考えよ!』ってね。そんな演説があったからこそ、今のウルダハの賑わいがある。これは、そんなエピソードを描いた絵なんだ」
この絵で決定なのでは?
「ナナモ様って…この国の、女王様だよな? そっか…Moneli、俺、なんだかこの国のこと好きになれそうだよ」
心がにっこりするね。
ナギはジャ・ベン・ティアに感謝して、「そんな情景をガラス細工で描けるなんて、あんた、すごい彫金師なんだな!」と感動していた。
ジャ・ベン・ティアはここの路上を借りて個展をしているのだった。規模は小さくても緊張しているようだ。
「けれど…こうして足を止めて作品を見てもらえると、やっぱり幸せを感じるもんだ。また作ろうってそう思えるよ」
「気鋭の彫金師ジャ・ベン・ティアの路上個展だ。ぜひ、こいつの作品をじっくり見ていってほしい」
彼の隣にいるアスティンが言う。この人も何か作っているのかな。
その先にあるスクリップ取引窓口がナギの興味を引いた。
「こちらは、ロウェナ商会と職人方の取引所です。取引は、完全紹介制となっております」
「へぇ…紹介がないと取引できない場所もあるんだな。いつか俺も…!」
私も知らなかったな。外にばかり出て、都市内の店をきちんと覗いたことがない。
その並びの雑貨屋ナナベに寄ってみる。生活用品、雑誌、質流れの珍品まで扱っているそうだ。
私たちを冒険者とみて、ナナベが紹介してくれたのは紀行録だった。怪我で引退した冒険者から買い上げたもので、霊災当時の様子が細かく記されているという。
「史料としても価値が高いかと…」
「すごいなそれ、俺も読んでみたいよ。旅の記録をつける冒険者は多いって聞いたけど、Moneliも書いてるのか? もしそうなら…いつか読んでみたいな、あんたの旅の話」
わ…こんなのでよかったら…。
「あとは、『週刊レイヴン』の記事を集めた、スクラップブックなんかもありますが…第七霊災のエピソードとは少し違いますね」
「それって、グリダニアのゴシップ誌の? なるほど…」
エオルゼアにもゴシップ誌というものがあるのか、と感心していると、ナギが「いくつか見つけたし、そろそろ、どれを買っていくか決めないか? ここだとちょっと落ち着かないから、市場の端で話そう!」と言った。もう決めたものがあるのかもしれない。
ザル大門の隅で話し合うことにした。いろんな話を聞けたナギは「俺には、すごく新鮮だったよ」と嬉しそうに言う。
「いろんな人と話して、モノに込められた物語を知る。冒険者として最初の仕事…大事な思い出になりそうだ」
何を選ぶか、私は冒険者の紀行録に決めた。親近感が湧いたからだ。ナギは別のものを選んだらしい。お互いに品物を買って、詩人さんのところで合流しよう。
異邦の詩人はルビーロード国際市場の、思った以上に奥まったところにいた。
ナギは何を買ったか秘密にしたままだ。
「後のお楽しみってことで!」
「やあ、おかえり! その顔は、何か見つけてきたんだね?」という詩人さんに、私は冒険者の紀行録を渡した。
「ふむ、各地を旅した冒険者の紀行録か…実は、この種の私的な記録の史料的価値は、さほど高くないんだ。書き手が当事者で、記述が偏っている可能性があるからさ」
でも今はオーラル・ヒストリー研究も盛んだよ…? でも、あれは研究者が聞き手になっていることが多いか…。
「だからこそ、僕にとっての価値は高い。ここには書き手が生きて、感じた想いが刻まれているのだから。詩作にとって、これほど有益な情報はないよ。さて、ナギ君は何を選んできたんだい?」
ナギが買ってきたのはゴシップ誌のスクラップブックだった。
「実は、姉貴がこの雑誌の記者なんだ。姉貴は当時から記者として各地を飛び回り、冒険者に旅の話を聞いたりしながら、記事を書いてた」
まさしくオーラル・ヒストリーでは?
「俺、姉貴から取材の話を聞くのが好きだったんだ。冒険者にはいろんな人がいて、皆、自由に日々を過ごしていた。だから自然と、俺も冒険者に…って憧れたんだろうな。言ってみれば、姉貴の記事、姉貴の仕事が、俺の旅の原点なんだ。だから…今と過去をつなぐ第七霊災ゆかりの品として、俺は『週刊レイヴン』を持ってきたんだよ」
詩人さんは少し考え込み、「…なるほど、誰かの残した足跡が、別の誰かの旅の原点となる…か」と呟いた。
「ひとつ、いい詩が浮かんだよ。聴いてくれるかい、新たな旅路を歩まんとする人々へ贈る、祝福と祈りの詩を…」
そう言って竪琴を構え、銀のアクセサリーをたくさんつけた指で爪弾いた。
その瞬間、私にまたあの頭痛がやってきた。
始まりの宇宙のような空間にいた。
私の背後から、旅を始めたばかりらしいいろんな種族の人がやってきた。彼らは正面に整列し、その中央に浮かぶ紫を帯びた黒い闇から一人の男性が現われる。「光の戦士よ」と呼びかけられて、私は驚いた。
次元の狭間という場所に私を呼び出したのはヨシダ・ナオキさんである。
ここは現世とは違うけれど、夢幻でもないかもしれない世界で、どちらにも当てはまる世界や歴史の話をした。
思考する人がいる世界から、争いの火種が消えることはない。ヨシダさんはそれについて「まだ見ぬ未来へ向かって、歩み続けていることの証拠なのかもしれないね」と表現した。私はそれをすごく好いなと感じる。
「世界を変えてしまうことは、いつだって怖さがつきまとう。でもそれは、新たな冒険を生み出すための、小さいけれど、大きな一歩だと思っている。この世界に、再び大きな変化が訪れようとしている…でもそれは、心躍る冒険に続く道」
共に歩む冒険の旅は、どこまでだって続いていく。
「冒険者として、英雄として、そしてひとりの人として…これからも自らの旅路を歩み続ける君のことを、僕たちは本当に大切に思っている。だからどうか、息災で。そしていずれまた、どこかで…」
この世界を作っている人たちからこんなメッセージを受け取って、まだ冒険者になりたての私は感激して泣けてしまった。いろんな言語を用いて冒険している人々にも、このメッセージが届いていると知っているからだ。どんな冒険者も御息災でありますように。
幻想から覚め、ナギの声が聞こえる。
「詩人さん、詩と報酬をありがとう。なんだか、この先も旅を続ける元気をもらえた気がする」
ナギは私に「それじゃあ、俺はもう行くよ」と言った。寂しいな…。詩人さんのせいで感傷的になってしまった。
「また、どこかで!」
いつか、お互いの旅の話をしようと約束して別れる。
「第七霊災では多くのものが失われたが、旅立つ人たちは常にいて、新たな歴史を綴っていく。そんな今に立つ君に、もうひとつ詩を贈らせてくれ…」
詩人さんは再び竪琴を構えた。
あなたの人生は問い続ける 歓び そして悲しむために
星々の眼差しの下 嵐を進み あなたは答えを探すだろう
あなたは足跡を刻み続ける 集め そして紡ぐために
灯は言の葉 暁の歌 それは風に乗り 天高くへ舞い上がる
あなたはいつか知るだろう その記憶こそ 答えだと
悠久の風の中 神なき世界を歩むが人ならば
命と命 世界の記憶 因果の裡に在る限り
旅路は続く あしたへ そしてまた あしたへ
詩はいい。わかったようなわからないような気分になれるところがいい。わかったような気になれるほど近くに引き寄せられると、その詩のことが好きなる。
ウルダハの街にバルーンが浮かんでいる。その向こうの夜空に花火が打ち上がった。
「…君は、新たに旅を始めた彼を見て、どう思った? 頼りないと感じただろうか、それとも心強いと感じただろうか。君の旅はきっと、人と比べて過酷だ。時には、独りで旅をしているように感じられるかもしれない。けれど、そんなときはどうか思い出してくれ。それでも君が、この世界を愛するかぎり、旅が終わることはない。冒険は、まだまだ続いていくのだと…」
私は頷いた。そうして、詩人さんとウルダハの夜景と夜空に浮かぶ花火を眺めた。