体験学習:彫金師(2)裁縫師(2)
彫金師:Lv5.ゴルゲットをゲットだぜ
セレンディピティーのところへ行くと、初回とは違ってすぐに私を見分けてくれた。
「あっ、Moneliさん! お待ちしておりました! もう来ないかと思って心配していました!」
魔法人形ネジの暴言に憤慨して、入門してもすぐに辞める新人の方が多いのだそうだ。
魔法人形という存在が、どういうものなのか私にはまだよくわからないので、AIのように機械的に学習するロボットというイメージを持っている。そこには心理がない。心理のないものの言動には生命がないと思っている。
ネジがどんな暴言を吐いても、それを学習させたのはどういう人物なのかが気になるだけだった。
「ともあれ、Moneliさんにまだやる気があって良かったです! ハンマーの扱いには慣れましたか?」
次の課題はカッパーゴルゲットを三つ用意すること。
「材料のカッパーインゴットは、銅鉱を購入することで作れますが、採掘師ならば、岩肌から掘り出して入手することもできます。私たち彫金師と採掘師は良きビジネスパートナー。素材調達をお願いしてみてはどうでしょう? もしくはあなた自身が採掘師となって入手するというのもいいかもしれません」
材料を自力で調達できるのはいいな…。いくらお金を使っても困らないほど所持金があれば、買ってしまう方が早いのかもしれないけれど、今は訓練のためにも全部自分で入手できるようになりたい。
カッパーゴルゲットは首飾りである。まず銅鉱でカッパーインゴットという金属材を作り、なめされた革と合わせて製作する。レザーはまだ自分で調達できないので、受付で購入した。
「あっ、Moneliさん。どうですか?」
セレンさんは課題の出来上がりに期待を寄せてくれていた様子だ。
Gorgetは鎧の首元を保護するものらしい。兜と胸当てをつなぐ役割もあったようだ。騎馬で戦う騎士の時代の防具から、次第に装飾品に変化している。
銅を使ってできたこの首飾りは、喉仏を覆うような太くしっかりしたデザインだ。
マスターは真っ黒なマネキンの首にカッパーゴルゲットを取り付け、じっくりと見る。このマネキンはヒューラン族のセレンディピティーよりも背が高く、男性的なシルエットのものだ。
「ネジジ…ジジ…ゴルゲット…ゴルゲット ヲ げっと ダゼ! デモ マダマダ 全然ダメ! ゴルァ ダメダ!」
ネジがまた何か喚いている。
「ご、ごめんなさい、またネジが失礼なことを…。この子は彫金品を見る目が、ギルドで一番厳しいのです。さて、気を取り直して…ゴルゲットは、喉を守るための防具です。Moneliさんの作ったゴルゲットは、頑丈で機能性バツグン! しかもなかなかオシャレなデザインに仕上がっていますね」
高校から美術系の授業を受けていないけど、講評はこんなふうに行われるのかな。ネジの御眼鏡には適わないものの、セレンさんからは合格点をもらえたようだ。
「無骨な防具といえど、遊び心は大切です。機能だけでなく、人の心を豊かにするものを作る。…これも彫金の大切な要素です!」
カッパーゴルゲットを作れるようになったら、新しい道具も使いこなせる頃だろうと、アマチュアグラインディングホイールを頂戴した。
「これは副道具と呼ばれる道具です。ハンマーのような主道具と併せて装備することで、作業がやりやすくなるんです。いい装備を使うと、仕事が捗りますよ! 一流の彫金師は、一流の道具を使うものです。しっかり装備を整えて、さらに腕を磨いてくださいね!」
一流の職人には一流の道具か…。でも身の丈にあった道具が大事だと思う。使いこなせないのに、道具だけ一流でも宝の持ち腐れってやつだろう。
裁縫師:Lv5.基本のき
今度は裁縫師ギルドへ。
レドレント・ローズは「あらいらっしゃい、裁縫師のヒナチョコボちゃん」と相変わらずだった。
「お裁縫の腕が少しはあがったかしら。今日はそうね…どれくらい上達したか見るためにひとつ、縫い物の課題をあげましょ」
このギルドマスターの口調を聞いていると、老舗の暖簾をくぐって土間で挨拶すると奥からゆっくり出てくる着物を着たお師匠さんの図が思い浮かぶ。
こちらの課題はブリーチを三着作るというものだった。
「材料は前に作ってもらった草糸に加えて草布とレザーの三つが必要ね。どれもギギマから買える材料で作れるわ。そうそう、草糸の原料となるモコ草もお店で買えるけど、別の方法でも入手できるのは知ってる?」
この話の流れは、他のギャザラーに採集してもらう方法の紹介である。モコ草は園芸師が採集できる素材らしい。
「サイズを使って刈り取らなくちゃいけないからそこそこ腕のたつ園芸師じゃないと入手できないけど。知り合いにお願いしてもいいでしょうし、あなた自身が園芸師になって集めるのもいいかもしれないわね」
ちょうど手持ちに素材が揃っていたので、ギルドの隅で作業をした。
ブリーチは作ってみるとズボン下のような見た目だった。素材のままの白い色がよりそう思わせる。レザーは先ほど購入した分を使い、草糸と草布を用意して、それらを素材に製作した。
「どう? 素敵なブリーチはできたかしら?」
レドレント・ローズにブリーチを納品すると、黒いマネキンに履かせたそれを検分しながら「ふむふむ…あら、まあ。うん、悪くはないわね」と頷いてくれた。
「裁断はきっちり型紙どおり、規則正しい縫い目に、丁寧な後処理、合格よ。ブリーチはもっとも基本的なズボンのひとつよ。昔は膝丈くらいの短いものが多かったんだけど、今ではひざ下まで覆う長めのものが主流ね。裾が細くて、激しい運動のジャマにならないからあらゆる職業で着用されているわ」
英語の表記ではHempen Breeches。麻のズボンという意味である。布地に少し凹凸があるところが麻らしい気がする。柔らかそうだ。
麻は涼しいしすぐ乾くし、現実の私はフレンチリネンを好んで着ている。でも麻のズボンはあまり履く機会がない。
「ブリーチを作る上で重要なのは、全体の形をほっそりと仕上げること。綺麗なブリーチはとっても足が長く見えるのよ? お洋服の一番大事な役割は何だと思う? それは身に着けるお客様を魅力的に見せること。あなたは服でお客様の魅力を引き出すお手伝いをするの」
種族によってかなり体型の基本サイズが変わるので、採寸をしっかりしないとお客様に相応しいシルエットを提供するのは難しいだろう。
「課題ふたつめで、これだけきちんとしたものを作る子は久しぶりだわ。ご褒美にこのアマチュアスピニングホイールをあげましょう。ホイールは副道具と呼ばれるもの、ニードルみたいな主道具とあわせて装備すると作業がとってもはかどるようになるのよ」
そう言って、レドレント・ローズは私を見据えた。
「あなたは教え甲斐がありそう。手とり足とり、じっ…くりと、裁縫師の技を教えこんであげる…ふふっ」
目つきが鋭いので、ちょっと怖い。
「ホイールを使いこなせるようになったらまた裁縫師ギルドにいらっしゃい」
次はどんな課題が出るのだろう。楽しみ!