エオルゼア社会科見学旅行

2022年7月初めてエオルゼアの地に降り立ちました

寄り道(3)流行を追いかける

Lv.2愛しのイエロー・ムーンちゃん

 採掘師ギルドを出て、次はどうしようかと思案しながら三叉路に入り、同じく思案顔の身体の大きな人物が視界に入った。

 ビター・スノーはここで恋人と待ち合わせをしているらしい。オニキスレーンという宝石にちなんだ回廊で、待ち合わせのお相手はイエロー・ムーンという名前だった。

 字面が何もかもロマンチックすぎやしないか。

 辛抱強く二時間も待っているビター・スノーは、「お、オレっち、嫌われちまったのかなぁ」と不安げだ。探しに行きたくても入れ違いになっては困るし、じっとしているしかなかったのなら余計に不安や心配が増すだろう。

「探してきてくんねェか?」

 よしきた。

 彼女の家は裁縫師ギルドの近くにあるらしい。

 このあたりには住居もあるのかと驚く。石造りの回廊で結ばれたこの都市内に、いわゆる『家』らしい形はなさそうなので、アーケード商店街の二階屋のような上層階が、住居スペースになっていたりするのかもしれない。屋外の通りから眺めた時に見える窓は、もしかしたらそうした住居のものなのか。

 どこにその入り口があるのかななどと考えながら、裁縫師ギルドに向かって歩いた。

 このギルドも通路の突き当たりにあるが、裁縫師ギルドの手前はちょっとした広場のようになっていて、壁際にロール状に巻かれた生地の反物が立てかけてあったり、裁断しやすいよう反物を横にした陳列棚がある。その前で生地を眺めている人がいた。

 それを横目にギルドに入ると、「あぁ〜ん、やっぱダメダメ!この服、ヘアスタイルと全然あってな〜い!」と嘆く声が聞こえる。目を引くマスタードイエローのジャケットを着た人だ。

 ダーリンとのデートに着ていく服を、今ここで選んでいる様子である。

 身長が高くて、つけ襟のような首のアクセサリもアクセントのある靴下と靴下留めも似合っていて私の目にはかっこよく見えるし、髪色と合わせた胸元のリボンになんだか可愛げがあって良さそうに思えるのだが、彼女自身はきっと様々な角度からダサさと戦っている。

 ダサさとの勝負の前にはダーリンが霞むのかもしれない。

 きっとビター・スノーは、どんな格好のイエロー・ムーンでも待ち合わせ場所に来てくれさえすれば舞い上がって喜ぶだろうに。

 イエロー・ムーンが自分の戦いに勝利してダーリンに会いに行くまで、ビター・スノーは自分がオシャレじゃないからフラれたのかもとか、他の男と会ってるのでは、などと悶々とし続ける羽目に陥る。

 だが、どれも恋路の楽しみの一つなのかもしれない。

 

 

Lv.1歓迎、臨時従業員

 裁縫師ギルドで困っているジュリアナに声をかけた。こちらのギルドの作業フロアには機織り機や糸車など、子どもの頃昔話絵本で見たような道具が置かれている。皆黙々と手を動かしていた。

 富裕層の人々が集う社交パーティの準備のために大忙しなのだそうだ。それで手が足りず、臨時従業員を募集することにしたという。

「お仕事は生地や素材の搬入、着付けのお手伝いなど、誰でもできる雑用なんですけどね」

 搬入は力仕事だし、着付けはそれなりに信用やスキルが必要なのではと思うが、ジュリアナはとりあえず店先にいる人を勧誘してきてほしいと言う。

 私は彼女を相手に、軽い感じで歓迎する仕草の練習をした。

 ギルドの玄関を出てすぐのところにいる、生地を眺めていた二人にまず声をかけてみた。ジェリオンは華々しいファッションの世界に興味を持っている様子だったし、エスデリーヌはブランドショップ「サンシルク」の新作に手が出ないと話していたから脈があるのでは?

 エスデリーヌは振り向くなり「ウルダハっ子はオシャレに敏感なの!今日は腰のショールを髪の色と合わせてみたのよ」と教えてくれた。

 髪や目の色に合わせて服の色を選ぶのっていいよね。それにはとっても同意だ。

 肝心のギルドの仕事に対しては、興味はあるけど迷う素振りを見せる。

 ジェリオンの方は「憧れの裁縫職人になれるの!?」と目を輝かせてくれた。期待通りで嬉しい。

 裁縫師ギルド前の都市内エーテライト付近にある衣装のショーケースに見入っている価値のわかるビビチュアは服に詳しそうだったし、ソソッタもギルドマスターを讃えていたから裁縫師ギルドに関われる機会を喜ぶかもしれない。

 しかし、最新ファッションに身を包んでいるだけあって、ビビチュアは金には困っておらず、雑務を請け負う気にはならないようだ。ジュリアナも暇潰しの遊興気分で来られても困るだろうし、しつこい勧誘はせずにおく。

 ソソッタは「ファッションモデルのスカウト?」と喜色を浮かべたものの、仕事内容を聞くと「残念だけど無理ね。この間もボタンひとつ付けるのに、二時間もかかったわ!」と言った。手先が不器用だと着付け作業なんかも手間取るだろう。

 警備に立っている銅刃団のラーキング・リーチは行き交う人のオシャレを羨んでいそうだったからどうだろうか。

「何だよお前ジャマジャマ、どっかに行きな」

 なんだか先日話しかけた時よりも虫の居所が悪そうだ。案の定勧誘しても口調荒くあしらわれてしまった。

 ギルドに戻り、ジュリアナに結果を報告すると、手応えのあった人たちの様子にはちょっと困惑したふうだ。誰でもできる臨時の雑用を頼むつもりなのに、ほとんどの人が『裁縫師の仕事』を思い浮かべて答えてくれていた。

「確かに一見、華やかそうに見える世界ですが、実際は、なかなか地道で根気のいる仕事なんですよ」

 勧誘の際の説明不足が誤解を招いてしまったに違いない。『単純な雑用』だと伝えていたら、エスデリーヌやソソッタは乗り気になっただろうか。ジェリオンは失望するかもしれない。

 結果的に今回の勧誘はうまくいかなかったということになるのだろう。ジェリオンが雑用から始めて、地道に根気強く裁縫師を目指す可能性もなくはないのかな、などと前向きに考えてみる。

 

 

Lv2.流行色は夢の彩り

 裁縫師ギルド受付の近くにいる、ラベンダー色のジャケットと帽子を身につけた人が気になるのは、腰の右側で薔薇の刺繍が目立っているからだ。薔薇の模様を身につけるってなかなか難しいと思う。

 刺繍枠で作業したものをそのままジャケットの裾につけているようで、ちょうど私の目線の高さにあるため、引き寄せられてしまった。

 エーセルワインは裁縫師ギルドのデザイナーだった。

 今度発売する貴婦人用ドレスの、コンセプトになる生地の色を決めかねていると言う。デザインが先に決まっても、生地が決まらなければ作業に入れない。

「今年、流行する色をリサーチしてきてもらえませんか?」

 大きな信頼を集めているのだから、このギルドの発売するものが流行の源なのかと思っていたが、実際は得意先の政庁層の人々の意向を汲んで製作されるらしい。流行の発信地は裁縫師ギルドではなく政庁層の人々ということになるのか。

 裁縫師ギルド前の都市内エーテライトがあるホールを抜けて右手に折れると、政庁層へ通じる緩い傾斜の階段がある。薄暗いが深紅の絨毯が敷いてあり、これまでとは少し雰囲気が変わる。

 階段入り口にオーベレトという銀冑団員が立っている。上層エリアは主に貴族や富裕層が生活する場所なので、出入りする者に目を光らせているそうだ。

 手始めに彼に今年の流行色を聞いてみることにした。

「私の洗練されたセンスを信じるなら

 赤、だそうだ。

 階段を上って行くと、途中にテテシャンというララフェル族がいた。

「ドレスの色だって? そんなの何色でもいいじゃないか。脱がしちまえば、どれも一緒だよ、うひひ!」

 そして階段を上りきると、ドゥドゥムンというやはりララフェル族がいる。彼は緑を挙げた。

「最近、黒衣森に行ったんだが、草色に染められた服がなかなかキレイだったぜ」

 階段室を抜けるとやはり銀冑団員が後ろ手を組んで立っていた。じろりとした目線に追いかけられながら進む。この層は半円状の外縁が内縁の円廊と二箇所で結ばれている。階段室右手の回廊を進むと再び銀冑団員が立っていた。王家を守護する近衛の誇りをもって胸を張っていても、お腹は空くよね。生きものだもの。

 腹がへったと呟くファストレッドにも尋ねてみる。

「ドレスの色と言えば、やはり黒だろう!なんてったって、黒はご婦人を美しく見せる色だぞ」

 わかる普段の世界では黒は喪の色でもあるけれど、リトル・ブラック・ドレスなんかはとてもシックでありながら華やかで素敵だものな。私は黒のドレスと聞くとすぐに絵画の「マダムX」を連想する。

 こちらの世界では黒はどういう文化を持つのだろう。

 外縁と内縁を繋ぐ通路に、テテシャンやドゥドゥムンと同じ服を着たコージャル・スパイダーというルガディン族がいた。下のゴールドコートという噴水広場は、昔は王立の舞踏会場だったと教えてくれる人だ。

 彼は黄色が好きだと熱く語った。

「憧れのイエロー・ムーンちゃんのカラーだからな!」

 そして我慢できない様子で彼女の名前を叫ぶ。

 ……ビター・スノーの不安はあながち杞憂というわけではなかったのか?

 イエロー・ムーンちゃんさんが一部でアイドル的な人気を持っているのだとわかった。単なる『彼女のお気に入りの色』には留まらないのだ。個人のカラーと呼ばれているからには、彼女が舞台に立った際ペンライトを振られるとしたら一斉に客席は黄色に染まる、そういう意味合いの色なのだ。

 コージャル・スパイダーにとってはまだ憧れでしかないけれど、これは過去のビター・スノーの姿だったかもしれないわけで、こういう憧れと恋慕の曖昧な感情から発した関係は大変そうだなあと思う。

 政庁層内縁の歩廊には点々と銀冑団員が立っていて、その制服の白が目立つ。それ以外にも立ち話をしているような人の姿はあるが、賑やかというわけでなく落ち着いた空間だった。

お邪魔しました

 そういう雰囲気の場所だからか、密会かデートかという親密さで会話をしているララフェル族がいて、興味本意で立ち聞きしてしまう。そばにやたら長い湾刀をさげたヒューラン族の銅刃団員が睨みをきかせているので、その背後に近づいた。

 ターバンをつけた方は召使いの話をしていて、それを聞いて控えめに笑っている方は金髪に艶のある白いカチューシャをつけている。かわいい。

 この三者の図が、ここが富裕層フロアなのだということを表している気がしてなんだか妙に納得してしまった。

 歩廊の西側に厳しい扉があり、その脇に白いローブを着たララフェル族のボボランが立っている。前にレレロトがいたあたりだ。

 ボボランは寝食も忘れて錬金術の研究に没頭してしまうから、寝なくても平気になる薬を錬成すればいいんだ!と喋りながらアイディアを思いついていた。

 話しかけると、我に返った様子で落ち着いている。

「流行色ねぇ白とかどうだ? 照りつけるウルダハの陽光を受けて、眩しく輝く純白。どうだい? 清楚で可憐だろ」

 先程ぶつぶつ呟いていた研究狂とは思えないまともな回答だ。屋外で開かれるパーティだと、確かに白が輝いて美しいかもしれない。フラワーガーデンのような背景があればなおさら。ウルダハなら色鮮やかなモザイクタイルと共に映えそうだ。

 扉を抜けて進んだ突き当たりにも白やベージュのローブを着た人たちがいる。コルネルは薬の配合率を学びたいふうだが、錬金術師ギルドに入っても教えてくれるのは基礎くらいと言う。そうしたデータはギルド内で共有されないものなのだろうか。

 皆共通の制服を着ているので普段の個性を推し量るのは難しいが、コルネルは流行る色として「赤と緑のマダラに、こげ茶色と紫のストライプ柄だな」と提案してくれた。

「どうだ、なかなか悪くないセンスだろ!」

 色の質問に対して柄を答えるセンスなかなかですね。できれば彼の頭に浮かんだそれを実際に描いて見せてほしい。

 フロンデール歩廊を進むと、天井高くゆったりとした空間があらわれた。噴水かと見紛う大きな水盤があって水音に癒される。天井が一部くり抜かれていて、明るい陽射しが差し込む場所もある。なんとも憩いの場所という雰囲気だ。都市内エーテライトは錬金術師ギルド前。ここで都市内エーテライトを全て開放したことになる。

 今まで見てきたギルドの中で最も良い景観にあるのでは、と思った。

 「部外者の立ち入りを禁じる」と説明するための銀冑団近衛騎士が立っているのも特別のように感じる。

 水盤の周りに、惚れ薬の話をしている人や風邪をひいた子供のために跪き頭を垂れる親の姿がある。錬金術師ギルドで薬も提供しているのかな。

 壁に設られた小さな噴水のそばにやはり白いローブを着たララフェル族のルルレムが立っている。左目に不思議なレンズのついた片眼鏡をつけている。何を見るための道具なのだろう。

 流行色について尋ねられると、はきはきと「もちろん赤ですよ!」と答えた。

「ウルダハは暑くて情熱的な街ですし、ピッタリです!」

 さらに尋ねようとすると急に顔を背け、「むむ黙ってくれたまえ」と言われてしまった。画期的な新薬の配合レシピがひらめこうとしていて、話しかけられるのは困る様子だ。

 これで政庁層での調査は最後だった。

 フロンデール歩廊の最奥にある錬金術師ギルドに入る。作業フロアには大きな炉のようなドームがある。リューシュはそのそばに立っていた。

「今年の流行は何色になりそうですか?」

 本当にこんな調査で決めているんですか?と聞き返したい。

 今回のリサーチ結果では、二票入った赤が最多となるわけだが、本当にそれでいいのかという疑問が消えない。私が調査したのはたかだか八人だ。本当はもっと広い範囲での検討が必要なのではと考えてしまう。心理的には暴論に近いように感じて抵抗があるけれど、やはり数は数なので仕方ないと自分を宥めた。ある程度共感を得られる色と言える。

 ここまでの道のりが意外と長かったので不思議な葛藤を感じる部分も大きいように思う。

「とっておきの触媒を使って、今までにない鮮やかな赤い染料を調合したいと思います」

 リューシュは、一見怪しげに思われる錬金術がいろいろな実験をすることによって生活に役立つ文化や文明の進歩を担っているのだと言った。

 現実の私が錬金術という言葉を知ったのが『妖人奇人館』『黒魔術の手帖』といった本でだったため、山師や詐術のイメージが強くてあまり興味を持たなかったが、実際は化学に繋がる分野でもありもう少し正当な興味を持っておけばよかったなと思っている。

「薬ばかり作っているように思えるかもしれないけど、ここでは繊維の染料や、蒸留酒なんかも研究しているのよ?」

 リューシュの説明は錬金術というより化学のそれなので、この世界の錬金術は魔術より化学に寄っているのかもしれない。