エオルゼア社会科見学旅行

2022年7月初めてエオルゼアの地に降り立ちました

寄り道(2)見栄張り

Lv1.ある恐妻家の悲劇

 世知辛さでなんだか沈んだ気持ちになりながら、アルダネス聖櫃堂を出て階段を降りる。

 近くにいたヒヒトに声をかけると、毎月かかるナル神へのお布施が高すぎると憤慨していた。パーティ用ドレス、それを着るための美容、それを着て出かけるグルメ、ペットの餌代破産寸前でもそれらを切り詰めることはできない。そして、お金のことでこんなに悩まされるのは、夫の稼ぎが少ないせいだという思考になる。

 私はヒヒトから、「キリキリ働けッ!」と彼女の夫の尻を蹴り飛ばしてくるよう頼まれてしまった。断りたい案件ではあるが、夫の名前がボボニマだとわかると、なんだか放っておけない気持ちになった。

 コロセウムの前で呼び込みをしていた彼だ。一生懸命やっているように見えたのだが。剣闘士のポスター貼りの仕事もしているようだし。

 ボボニマの働きはどちらかといえば雇われ仕事に思えるが、個人営業の商人なのだろうか。それともヒヒト自身が商人組合に属しているのか。それなら妻のほうが稼ぎがありそうなのに、などと首を捻る。捻りながらコロセウムに向かった。

 現地へ行って、仕事中のボボニマに声をかけ、ヒヒトからの乱暴なメッセージを伝えると、怯えた声をあげた。

「ひ、ひいぃ、かあちゃん許してぇ〜!」

 哀れな恐妻家の叫びを聞くと、ボボニマからの頼みも断れなくなる。

 今売り出し中の剣闘士フランツのポスターを抱えて、コロセウムの壁に貼りつけに向かった。剣術士ギルドから請け負った仕事のようだ。

 先日迷ったおかげで剣術士ギルドの周辺ならなんとなくわかるようになってきた。

 フランツの応援ポスターを貼っても、どういうものか見ることができなくて残念だ。

 コロセウム周辺の壁には、おそらく歴代の剣闘士が使ったのだろう盾が飾られている。ごつごつとした岩壁で、紙製のポスターなぞすぐに剥がれてしまいそうだ。

 ボボニマと同じ、ピンクと白の縦縞の上着を着たスタッフが「ま〜た勝手に貼って」と呟いている。三枚貼ったあの応援ポスターは無許可のものだったのかもしれない。人の手ですぐ剥がされてしまうのかもなあと思う。

 剣術士ギルドのウォルカンに、貼り付け完了を報告した。冒険者の手を借りるほど忙しいボボニマを慮ったウォルカンの、給料を少し増やしてくれそうな口ぶりにほっとする。

「いやはや『結婚は人生の墓場』というが、ボボニマはまさに生ける屍ってやつだな。少しは休まないと、ザル神様からお迎えがきちまうぜ」

 ウォルカンは視線を落としてそう言った。当のボボニマは今日も徹夜だとため息を吐いていたが、彼を心配してくれる人がいてよかった。どんな徹夜仕事をしているのか気になりつつ、そんな事情を妻は知っているのだろうかと再びヒヒトのところへ行ってみる。彼女は何も知らぬようだ。

 それでもヒヒトは「女の見栄の張り合いは、お金がかかるのよね〜」と愚痴を言いながらも、その見栄の張り合いから脱けようとは思わないのだろう。

 

 

Lv1.富豪のはした金

 ポスター貼りをしている途中、コロセウムを見下ろすバルコニーにいたジュネヴィーヴに声をかけた時のことだ。ややくすんだ金色があしらわれていてそれほど派手な色味でもなく、ともすれば屋内の薄暗さに溶け込みそうな控えめな服を着ていた。話しかけられる人がいたから、そうしただけなのだが、彼女は面白い声を出して驚き、振り返った。

「うひゃほっ!」

 そんな声を出してしまったことに慌てたのか、ジュネヴィーヴはいかにも初心者で庶民の装いの私に腹を立てて「話しかけるなんて百年早い」と言った。

 驚かせたせいで大富豪令嬢である彼女の財布からお金が落ちたのは申し訳なかった。お金がありすぎて溢れてでもいたのかもしれない。羨ましいことである。

 五箇所にバラまかれたギル貨幣を集めて渡そうとすると、「何をぼさっとしているのよ。早くお金を渡しなさい!」と怒られてしまった。盗みをはたらきそうに見えたのなら改めなければいけない。

 ギル貨幣の入った小袋は全部で五つ。きちんと数えて、全額彼女の記憶と一致したようだ。小銭の管理にも気を抜かないのは、蓄財の初歩だと読んだことがある。蓄えがゼロからの出発の場合だと思うが。

 事が解決すると、ジュネヴィーヴは「庶民が話しかけないでくれる?」としか言わなくなる。

 大富豪令嬢なら自分で財布を持たず、お付きの人に持たせているのではとも思うが、ジュネヴィーヴはこれから自身が大富豪になるのかもしれない。

 

 

Lv1.新米剣術士のお願い

 剣術士ギルドの入り口近くに立っているザザリックは、ウルダハで人気の娯楽コロセウムについて教えてくれる。絶大な地位や名声を得て歴史に名を残したという歴代の剣闘士チャンピオンたち、「アラミゴの猛牛」ラウバーン、「赤の剣士」グレインファル、「ナルザルの双剣」アルディスとリーヴォルド

 ラウバーンの名前と二つ名は、この世界に来る前から知っている。他の三人についてもいつか語られるだろうか。

 ザザリックは彼らのように剣闘士としてのしあがっていくと気炎を吐いた。

 彼は今度コロセウムでデビューする新米剣術士だった。話しかけられるとサインを求められていると早とちりするようだし、将来大スターになることを確信している大変な自信家である。

 そんなザザリックから、デビュー戦を華々しく飾る装備が欲しいので、注文書を持って彫金師ギルドでカッコいいサークレットを発注してくるよう、お使いを頼まれた。

 彫金師ギルドへは初めて向かう。四叉路を南へ行くと、記号混じりの言葉を話すララフェル族より小さな人形が立っていた。地図を見ながらでなければ常に迷ってしまう私にはありがたい看板人形だ

 受付のジェマイムに、派手なサークレットの注文書を渡した。アクセサリの発注内容を読みながら、ジェマイムはすぐに装飾に必要なガーネットの在庫数不足を確認したらしかった。

「採掘師ギルドに行って、採掘師のクルックド・ハフトから加工前の原石を届けるよう伝えてくれませんか?」

 ザザリックはそんなに大量のガーネットで飾り立てたサークレットをどこにつけるのだろう。重くないのかな。

 今度は採掘師ギルドを初訪問する。近づくほどに土臭い雰囲気が強くなり、広い通路の端に重そうな木箱や布袋のようなものが積んであった。途中、ゴブレットビュートというところへ案内をするイアボリー・スパローニ二等闘兵が立っていた。背後に下へ向かうトンネルのようなアーチが見える。

 採掘師ギルドに入ると、他のギルドとはまた随分と空気が違った。

 飲んだくれがいる。

 他では訓練や作業に使っていた下のフロアに、バーカウンターがあり立ち飲み用のテーブルがあり、何か余興を披露するようなステージがある。

 床には錫製と思しきシンプルなコップが転がっている。

落ちているものが気になる

 雑然としている。下品な話し声も本当はあるのかもしれないが、聞こえないので安心できる。

 炭鉱で栄えた町の話を読んだことがあり、なんとなくそれと近しい印象を持った。異なるのは、炭の黒に染まった人はいないことと、受付のリネットやギルドマスターのアダルベルタのような人が混じっているところだろうか。

 カウンターで飲もうとしていたクルックド・ハフトに声をかけると、仕事終わりの一杯の邪魔する形になってしまい、少し不機嫌だった。

「今日中じゃないとダメなのかよ!?」

 なるべく早い方がよさそうだが、別に今日中じゃなくてもと私は思う。

「金持ちのボンボンってのはワガママだな。剣闘士だか何だか知らねェが、最近の若いヤツは、すぐにカタチから入りやがる。まァ、依頼された仕事はキッチリ済ますぜ。剣闘士も採掘師も実力が第一だからな!」

 早く仕事を終わらせたいに違いない勢いで言って、そこで話は終いになってしまった。

 きっとクルックド・ハフトはガーネットの原石を注文通りに彫金師ギルドに納品するのだろう。もしかしたら一瞬で済ませたのかもしれない。

 その後に声をかけると、採掘師も体が資本なので働いたあとはきっちり休むと話していて、もう仕事を持ってくるなという言外の意味を感じ取った。

 いい石を見つけて、酒を美味しく飲んでいるから、やはり腕の立つ採掘師なのだろう。

 ザザリックからもデビュー戦のよい報告や、自慢話が聞けたらいいなあ。