迷惑な鉱石マニア
Lv9.迷惑な鉱石マニア
夜更け、ブラックブラッシュ停留所で再びウォーリンと話した。
「準備も万端だ、早速仕事を頼もうじゃねーか!」
ここでは鉱石を積んだ列車が行き来している。道中が安全とは言えず、ヘルズブレード洞穴を通過する際、シルバーコブランたちが荷台に飛び込んできて、鉱石を喰べてしまうらしい。
「そこでだ、トンネルに隠れたシルバーコブランを誘い出す、シルバーコブラン好みの大ぶりの銀鉱を用意したぜ! これをトンネル内の岩盤の裂け目に仕掛け、誘い出されたシルバーコブラン共を殲滅してきてくれ!」
この鉄道で気になっていたトンネルの名前がわかって嬉しい。
コブランが大好きなキラキラ輝く銀の鉱石を受け取って、ヘルズブレード洞穴へ向かう。線路脇に作業場のような広いスペースがあった。外灯と篝火があるが、その明かりの届く範囲は狭い。岩壁に沿って物置や木箱、樽、壺、麻袋などが置いてある。雑然とした空間だった。
岩盤の裂け目というから側面にばかり注意していたが、裂け目は地面にあった。怪しい紫色のもやもやに大ぶりの銀鉱をしかける。
するとわらわらとシルバーコブランが現われた。ターゲットの合わせ方がまだよくわからずまごまごしてしまう。
洞穴を出ると外は明るくなっていた。薄靄のなかウォーリンのところへ報告に行く。彼は「ほほーう」と感心してくれた。
「これでしばらくは、安心して列車を運行できそうだ! 鉱山と都市の物流をつなぐここの列車は、アマジナ鉱山社が運営する重要な存在だからな、一帯の経済を担っていると言っても過言じゃねーぜ。まぁ、その重要な列車様を守るために、俺らの人手が足りなくなっているわけだけどな…」
世情が落ち着いて、大概の人が安心して旅できるような状況にでもなれば、列車に護衛など要らなくなるだろうし、今度は自警団や衛兵の仕事が減って困るくらいになると思う。
ウォーリンから報酬にヴァイキングソードをもらった。
アチーブメント・物語の紡ぎ手ランク2を達成したようだ。
寄り道:Lv9.時代遅れの精錬法
ホームを降りてうろついていると、横の荷置き場にいるゼゼダから「あっ! あんたが最近ここらで活躍してるって噂の冒険者ね!」と声をかけられた。
「ちょっと、ついでにハンマービークを倒してくれない?」
ついで?
「っていうのもさ、さっきナル・ザル教団からいきなり儀式用の銀器の依頼があったみたいでさぁ」
ゼゼダの言う「ついで」がどういう納期を想定しているのかわからないが、どうも急いでいる口ぶりである。
儀式用の銀器は、不純物の混じった銀をハンマービークの骨灰を使って加熱し、製錬するのに、肝心のハンマービークの骨片の在庫がないらしい。
「だからお願いっ」
手持ちの急ぎ仕事はないし、すぐに取り掛かるつもりだが、届け先のベリンゲルとはまだ会ったことがないので顔見せしてからにしよう。ベリンゲルは施設の受付だと聞いて、施設に入れることを初めて知った。
玄関先に赤い日除けのある建物だ。
ウルダハ市街や酒房以外の建物に入るのは初めである。視点の位置が難しくて少し酔う。
ベリンゲルは上唇の周りと顎に髭をたくわえた堅い雰囲気の人物だった。
この施設ではナナワ銀山から採掘された純度の低い鉱石から、銀を精製する作業が行われている。
「鉱石の品質については、どうぞご安心ください。当施設はウルダハの宝飾店エシュテムが運営しており、精製には最新の技術を用いているのです」
横では、「もっと早くできないのか?」とエルレッドと同じ赤い襟に制服を着た人が受付係に詰め寄って、「そうは言われましても…」と返されている。
本当に忙しいようだ。でも予測された繁忙期ではない様子だし、急な稼働率の進展で施設の側も戸惑っているのかもしれない。
ハンマービークはいつもは大きな鳥だなあ、鳥かな?などと思いつつ横を通り過ぎている大人しい生物だ。それを八体倒して、骨片を八個集めた。
施設受付の中央で、腕組みして正面を見つめているベリンゲルは話しかけづらい。
「まったく、ゼゼダは何をやっているのでしょう…。早くハンマービークの骨片を持ってこいと言ったのに」
やっぱり急ぎの仕事でしたね。私は受付カウンターにハンマービークの大きな骨を置いた。
「ああ、貴方が代わりに用意してくださったのですか!」
硬い表情のままだが、口調は嬉しそうだった。
「これで骨灰を使った灰吹法で銀が精錬できます! クリスタルを使ったシャード法が確立された今、こんな手間のかかる方法は、普通、使わないんですがね。高くて時間のかかる製錬方法を指定するということは、ナル・ザル教団も儲かってらっしゃるんでしょうね…。全く、羨ましい話です」
お金のかかる昔ながらの方法を指定して、急に儀式用の銀器を注文する。何か特別な理由があるのだろうか。単純に金を使いたいだけか。
ナル・ザル教団はママネの胡散臭い印象が強くて、やたら疑ってかかってしまう。
報酬のスートブラックのポットヘルムをベリンゲルから受け取って、ゼゼダのところへ報告しに戻った。
寄り道:Lv9.侵入!ネズミの巣
一つ仕事が片付いたのに、ゼゼダはまた俯いて考え込んでいる。
「あ〜あんたまだいたんだ! 良かった〜! 聞いてよ、キキルンの盗人連中がまた積み荷に手を出したの!」
キキルンはキラキラした光り物が好きなせいで、すぐ積み込み途中の鉱石を盗んでいってしまうらしい。鉱石がいろんな種族に狙われる世界だ。
「納品物が盗まれたことが上司にバレたら、お前の管理不足だって上司に怒られちゃう!」
積み荷の安全は鉄灯団の管轄なのでは?
積み込み途中だと精製施設の責任問題になるのだろうか。盗みが頻発しているなら上司と対策する方がいいし、ゼゼダ一人で盗賊と対決しない方がいいのじゃないかしら…。
取り急ぎ盗賊キキルンのアジト・ネズミの巣から、アマジナ印の木箱を取り返してくることになった。
ネズミの巣は、酒房の西にある。傾斜のある地形に小さなテントのようなものがいくつかある。歩きにくい場所だった。
岩場に隠れながら木箱を探していると、キキルン・シェルスウィーパーがやたらいて、用事を済ませる間にF.A.T.E.半熟英雄「半熟のババルン」に手を出してしまった。たくさんのキキルンに追われるので、木箱を奪取した後は一目散に逃げ出した。
「待ってましたぁっ!」
ゼゼダは拳を握って待ち構えていた。
アマジナ鉱山社の鉱石輸送用の木箱を渡す。木箱というより丸みのある蓋つきの宝箱といった形状だ。これを三つも抱えて走るのは大変そうだ。
「これよこれ! よかった〜!! ありがとう、これで今回は上司に怒られずにすむわ!」
次回のためにも上司と話し合った方がいいよと伝えたい。
「しかし、あの盗人キキルンたちには困ったものだわ。あれでも昔は、ウルダハの都市内でまっとうに商売してたっていうんだから、信じられない話よね。まあ、ウルダハの商人たちが商売のジャマだって言って、獣人排斥令を作って追い出しちゃったんだけど…」
しょ、商人!? 途中まで、ウルダハ市街の商店に立つキキルンの姿を想像しながら聞いていたのだが、その後は商人たちに排斥令を出すような権限があるのかと驚くばかりになった。
「その結果が、鬱陶しいキキルン盗賊団の結成っていう話よ。ウルダハの人達は良くても、外の私達にとっては迷惑な話よね!」
この世界で獣人とはどういう種族を指すのだろう。百科事典では種族の項と、獣人と蛮神の項で分けられている。それぞれの項を見比べると、所謂人間的な目鼻立ちを持つものとそうでなもので区別しているのだろうか。
共生の民・キキルン族のページには「明確な根拠地を持たず、エオルゼア各地の都市や集落の構成員として、地元の文化に溶け込んで暮らしている。彼らが共生の民と呼ばれる所以」とある。
“かつてはウルダハにも多く居住していたが、約二十年前に施行された「獣人排斥令」の影響で、都市内への出入りが禁じられたため、職にあぶれる者が続出。一部がザナラーンの荒野で夜盗と化してしまった。“
しかし「盗賊団の域を出るものではないようだ」ともある。
独自の政体は持たない種族というし、敵対し衝突が多かったわけでもないのではないか。排斥令は一方的に出されたものじゃないかと思う。二十年前の事情もいずれ知る機会があるといいな。