美味しい差し入れ
寄り道:Lv4.間違えた荷物
クイックサンドにいるボタルフは腕組みをして考え込んでいた。彼は荷運び人だった。
「実はついさっき、ちょいとドジっちまってさ…」
スコーピオン交易所から運んできた荷が、他人の物だったようなのだ。
「だが俺はもう、港からの長旅でヘトヘト…。あんた、このホライズン宛の小包をスコーピオン交易所まで届けてくれよ」
百科事典によると、スコーピオン交易所は東アルデナード商会だけでなく隊商互助会に属する独立系商会も集う、物資輸送の中継地だ。ベスパーベイという港で荷揚げした商品を、都市内に運び入れるべき一級品と、シルバーバザーで売る二級品に仕分ける作業が行われる。
あの乱雑な平台を思い浮かべ、まあ取り違えも起こりやすそうだなと思う。
ボタルフは旅の疲れで注意散漫か投げやりな気持ちになっているのではないか。私を信用して依頼しているならいいのだが。
「場所なら、ナナモ新門の衛兵ミミシュに聞けばわかる…。それじゃあ、悪いけどよろしくな…」
前に話したときは、儲けることに対する意欲が感じられたものだが、疲労は意欲も削ぎ落としていくものな…。少し休めるといいね。
寄り道:Lv4.ウルダハ操車庫の待ち人
フロアの隅にある樽の上で寝ていたケケザニが起きていたので声をかけてみる。
「ううう、眠い…ちょっと飲みすぎたかなぁ…。まいった。当直当番、寝過ごしちゃったよ」
この人も仕事での失敗つながりの依頼だ。だが、飲みすぎなら自業自得と思う。
「悪いんだけど、この鉱山鉄道の時刻表を、ウルダハ操車庫のギギナスに届けてくれないか?」
ではケケザニはこれから何を?と尋ねる前に、彼は再び舟を漕ぎ始めてしまった。それは……それは許されませんね…。
時刻表のないギギナスは困るだろう。しかし自業自得の案件は後回しにして、ボタルフの件を先に片付けることにした。
ミミシュには前にも声をかけたことがある。今回は新たにスコーピオン交易所の場所を教えてくれた。門を出て西。
交易所の南向きの門から入って右手にチョコボと荷車が並ぶ。一頭にはスラッガーという名前がついていた。
「だーっ! この糞忙しいのに、荷物がたりねぇ! ボタルフの野郎、間違えて持ってきやがったな!」
振り返ると、平台のそばでオスェルが苛々している。私はホライズン宛の木箱のような小包を彼に渡した。
「おーっしゃこれだこれだホライズン宛の小包! まったくお前は、いつもせっかちでよぉ…!」
せっかちはオスェルもである。一息ついてやっと別人だと気づいてくれた。
「あーあー助かったぜ、マジありがとな!」
オスェルはせかせかと「俺ぁまだまだ、探してる荷物がいっぱいあるんだよ!」と言いつつ、ウルダハンブラウンのタバードをくれた。
この交易所の品物の管理はやはり改善が必要だと思う。
西ザナラーンの金槌台地で用を済ませ、デジョンを使って一旦街に戻り、中央ザナラーンの刺抜盆地に向かう。
ウルダハ操車庫ではギギナスが怒っていた。
「ケケザニの奴、いったい何やってるんだ! 遅刻なんて、鉄道員失格だぞッ!」
ケケザニは寝ています…。彼から預かった、アマジナ鉱山鉄道社作成の時刻表を渡す。遅くなってすまない。でもケケザニが悪いね。
「まったく、あいつの酒癖の悪さには困ったもんだ。こいつがあれば、なんとか仕事は進みそうだ、ありがとよ」
スートブラックのサルエルをもらった。アイパッチでかなり厨二っぽいが、スートブラックで揃えられてなかなか良い取り合わせになった気がする。
列車の方はまだまだ来る気配がない。
Lv5.美味しい差し入れ
今日も操車庫のホームにいるパパシャン所長に仕事を無心した。
「せっかく来ていただいたのです。なにかお願いできることが、あればよいのですが…と、そうでした!」
今日はこの周辺で、衛兵が警備をしているという。何を警備するのだろう。
「暑い中、実にご苦労なことですわい。そこでですな、この上等なプレッツェルを、衛兵さんがたへ差し入れてきて頂きたいのです」
所長は今から大事な用があるそうで、この仕事は私に一任された。
街路灯の土台が作る小さな影に立つ、銀冑団の律儀な衛兵にまず声をかける。
「くぅ…あ、暑い…でもこれも任務…頑張ります!」
すごく暑そうだ。こういう時の差し入れが、美味しそうに焼けたデューンフォーク伝統の塩味のパン、でいいのだろうか。暑いから塩分補給なのかな。絶対に水分も必要だと思う。
「おお! 差し入れとはかたじけない!」
彼らは王家を守る近衛兵、銀冑団だった。王家に関わる何かがあるから警備が必要なのだろう。
「くうう、それにしても…暑いッ!」
操車庫を見下ろす高台には、銀冑団の真面目な衛兵が辺りに目を光らせている。
「むむむ、怪しい者めッ! 何者だッ!」
上等なプレッツェルを渡すと、畏まって「差し入れですかぁ、助かります!」と受け取ってくれた。気を張っていたらしい。
「パパシャン殿にお伝えください。見渡す限り、怪しい者は特におりません! 中央ザナラーンは平和そのものであります」
目庇して遠くまで見ようとしながら、「中央ザナラーン、異常なしっ!」と重ねる。
こういう台詞のすぐ後に、ゾンビに襲われたりするシーンを見たことある気がするな…大丈夫かな。
ザル大門方面の街道に、銀冑団のお堅い衛兵が一人で立っている。見通しの良い広い道だが、複数人に急襲されたらと想像するとちょっと不安になった。
「右よーし! 左よーし! 異常なーし!」
鉄道員みたいな台詞だ。上等なプレッツェルの差し入れに、彼は「感激ですッ、ありがとうございますッ!」と派手に喜んでくれた。
「腹が減っては戦はできませんからね!…まぁ、別に戦はしないですけど」
危険のない警備任務のようだ。
「パパシャン殿、見ていてください! 銀冑団は我々が立派に引き継ぎますぞ!」
異常なしと言う二人の言葉は、所謂フラグというものではなかろうか。何故そう感じるのだろう。
政庁層にいたドゥドゥムンによれば、昔の銀冑団はウルダハ最強の精鋭だったという。「今じゃ、王家とともにすっかりショボくれちまって、銅刃団みたいな自警団に後れをとる始末さ」そうも言っていたけれど、出会った銀冑団衛兵は律儀で、真面目で、お堅い。無気力や腐敗といった性質はなさそうだった。確かに最強で精鋭かと問われると、直ちには頷けないが。
操車庫に戻ると、パパシャン所長が慌てふためいていた。
「え、衛兵さんがたの様子はいかがでしたか!? なにか、目撃情報などありませなんだかっ!?」
私たちは何か異常を見つけるべきだったようだ。
「…あ、いや、申し訳ありませぬ。つい取り乱してしまいまして…と、ともかく、ご苦労様でございました。些少ながら、こちらはお礼です」
所長はスタッフという両手呪具をくれた。武器をくれる老人、只者ではないに違いない。
一旦は冷静になったものの、所長の焦りが消えたわけではなかった。
「お主を信用できる冒険者とみこんで、折り入ってお願いがあるのです! 急を要することなのです! どうか、話だけでも聞いてもらえんだろうか!」
これほど切羽詰まった人の話を、聞くだけで済むとは思わない。聞くだけで済まさないから、話を聞くとも言える。