体験学習:剣術士(2)
討伐手帳を受け取ったあと、剣術士ギルド受付にいるウォルカンに挨拶をしてみた。
寄り道:Lv.3 厄介なバグ対応
「よぉ、冒険者、仕事を頼まれてくれねェか?」
初心者でもできる簡単な仕事だそうだ。
天候のせいか、最近レディバグという魔物が西ザナラーン付近に大量発生していて、集団で湧くと非力な商人の手には負えない。というわけでレディバグを討伐しにいくことになった。
ナナモ新門を守るミミシュが、門の名前の由来を誇らしげに教えてくれる。ナナモ女王陛下の即位を記念して建てられたという。
「ナナモ様のご威光は、ウルダハの未来を明るく照らしているのです!」
門を出ると、ナル大門の外に広がる風景とは大きく異なっていて、私はしばらく見晴らしのよい景色を眺めた。
門近くには備えを確認する冒険者たちや、幌付きの荷車と待機しているチョコボ、商人たちがいる。
どのくらいの距離にあるのか、尖った岩山の上に聳える灯台の夕陽に照らされた輪郭がきれいだなと思う。門前に瓦礫があったり塀が崩れていたりもするが、ナル大門を出た折に見たような哀しい光景はなかった。
銅刃団衛兵が、ナナモ新門は第七霊災後に建設された最も新しい門だと言っていた。ミミシュの言う「未来を明るく照らす」とは、復興に通じる門というような意味でもあるのかもしれない。
それほど強くないモンスターは余裕をもって倒せるようになってきたけれど…程度の腕前なのに、課題をこなしていくと実力に関わらずレベルが上がっていく。
レディバグ討伐を済ませ、不安に思いつつも、ササモの八十階段を降りた先に見える灯りの方まで足を伸ばした。
星の瞬く美しい夜である。道なりに照明も多いせいか、刺抜盆地で感じた心細さは生まれない。
木製の建物に囲まれた場所はスコーピオン交易所だった。隊商の集まる物資輸送の中継地点だそうだ。衛兵から「高価な商品もあるから、壊さないよう注意してね」と言われた。
もしかしたらブレモンドに会えるかな。
分厚い門をくぐると、商人やチョコボや荷物で賑やかだった。北西側の門の外に立つソリタリー・エルクも「金目のものがあるからって妙な気を起こすんじゃないぞ」と言う。
ここにはウルダハに納品する品が集まる。交易所の中央にある平台に置かれているのがそれなのだろう。
「見ての通り、荷物管理でてんてこ舞いの場所です、仕事が無くて困るということはありませんね」
備蓄品の管理をしているギギヨンの言うとおり、整然と管理されているようには見えない。手間の多さに由来する忙しさってあるよなと思う。壊れていたり、一つ二つなくなっていても、すぐには気づきにくそうだ。
見物を切り上げて、ウォルカンへ報告をしに戻る。
「見た感じ、まだまだ新米風のようだが。なかなかどうして、けっこうやるじゃねェか」
自然な口調で褒められると嬉しい。「ガキの駄賃程度だが」と言って、彼はお金とフィンガレスグローブをくれた。
指抜きグローブだ! 素手でいた私にはいいアクセントになる。スートブラックという色も締まっていて気に入った。
話が済んで、ウォルカンは「ミラさん、今日も凛々しくて美しいぜ…。恋人とか、いるのかなぁ…」とため息をつく。
私もミラの方を見てみる。彼女は片腕を上げて、練習場の方に何か合図を送っているところだ。いつの間にか私は剣術士ギルドの一員としてGLA Lv6になっており、次の課題に挑戦できる頃合いだった。
Lv.5 戦斧を砕く剣風
ミラには、私の手に少しずつ剣が馴染んできたように見えるらしい。本当だろうか。
新たに与えられた課題は「敵視」を体得することだった。
敵に斬りかかれば、当然反撃される。このとき敵から受ける殺意が「敵視」である。剣術士の最大の目的は、自分や仲間に向けられた敵からの敵視を自分へと集中させること。敵の攻撃に晒された、か弱い仲間の危機を救うため身代わりになること、とも言える。
剣術士の役割には、目の前の敵を倒すことだけではなく、敵視を請け負って仲間を守ることも含まれる。
ミラは、クイックサンドのモモディからの依頼で私にこれを体験させようという考えであった。
近頃、ウルダハ外部からやってきた斧術士のゴロツキ集団があちこちで問題を起こしているので、連中を見つけて、狼藉を止めるという内容だ。ゴロツキどもにアピールをして、相手の敵視を自分へと向ける。すべてのゴロツキの敵視を集めたら、モモディに報告。
……どういうこと?
「それでは、行ってこい!」
送り出されたので、とにかくクイックサンドへ向かった。
早速店の表玄関の下で、態度の悪い斧術士が、自分の二の腕の高さほどしかない身長の男性に因縁をつけているのを見つけた。平常の通りに声をかけると、振り向きもせず「関係ねェヤツはひっこんでろ!」と言われてしまう。
アピールをしてみるとようやく振り返って「何だあんた、こいつの知り合いか? この野郎、俺を騙してボッタクろうとしやがったんだぜ!? いいか! 海の男ナメんじゃねェぞ!」と凄んだ。
責められていた男性は、虚ろな目で顎を引き、頬もげっそりとして見える。巷の話を聞いていると、ウルダハなら外から来た人を騙そうと企む輩もいはするだろうと思える。けれども、いかにも厳つい斧術士をわざわざ騙しにかかるだろうか。
通りの端では、樽や木箱の影で、ガラの悪い斧術士が小柄なララフェル族を壁に追い詰め見下ろしている。
「うるせェ! 横から声かけんなよ!」
アピールすると、急に腰を落として相撲のような構えをとった。手には大きなミトンをつけている。
「俺がなんか悪いことしたってのかァ? フン、わかったよ。消えりゃいいんだろ? 消えりゃア!」
通りから死角となる道の隅でも目つきの鋭い斧術士が「てめェ! 俺をコケにするたァいい度胸じゃねェかッ!」と怒鳴っていた。その巨体の陰に労働者風の人が座り込んで項垂れている。
「あンだよ! 邪魔すんなよ! こいつが海の男をバカにするモンだからよォ!」
アピールした途端、覚えとけよ!と言い捨てて離れていく。これが敵視を請け負って、か弱い者を守るというやり方なのだろうか。
クイックサンド玄関前の隅の隅に、横柄な斧術士の背中が見えた。足元から覗き込むと相手は女性だ。
「おい、邪魔すんな! いまいいとこなんだよッ!」
女性にとってもはまったくいいところではない。アピールをして邪魔してやる。
「なんだお前、コイツのツレかァ? 何? 乱暴な男は嫌われるだとォ? チッ、お陰で興が削がれちまった」
アピールの仕草にはやや挑発的な印象がある。もしかしたら思いのほか実力のありそうな剣術士に見えたのかもしれない。
四人の斧術士を追い払い、モモディのもとへ向かおうとクイックサンドに入った。テーブルスペースの一角に、風格のある男が座っている。
「邪魔しないでくれ。ひとりで呑むのが好きなんだ。もっとも、アンタがカワイコちゃんなら話は別だがな」
なるほど。
赤い上着の胸元が大きく開いていて目立つ。長い剣が一人分ほどの幅をとっている。そんなふうだが、両手を膝の上に置いていて、何だかちんまり座っている印象だった。
「ねェちゃん、なんだよこの酒はァ!」
大きな声に振り返ると、さきほどの斧術士たちと似た体格の男が、体躯の小さな店員に向かって喚いている。飲食店にふさわしくない表現も聞こえる。
店員さんがじっと俯いていてかわいそうだ。なので、ファルムルにもアピールしてみた。
「なんだァ!? 俺を誰だと思ってやがる? 泣く子も黙る無敗の傭兵団、最強戦斧破砕軍団の切込み隊長『疾風怒濤のファルムル』たァ、俺のことよ!」
二つ名付きの名乗り、白浪五人男みたい! そう思った私の視線が気に食わなかったらしい。
「やろうってのか? 面白れェ! 斧の錆にしてやらァ!」
次の瞬間、暗転したので私は慌てた。
「お〜お、クイックサンドもずいぶんと賑やかになったじゃねェか。パーティでも開こうってのかい?」
さっきお行儀よく座っていた風格のある男が、足を組んでゆったりとジョッキを傾けながら言う。足元は下駄だ。
「なんだてめェ!? 俺を誰だと思って…」
男が立ち上がり、ファルムルと相対した。
「俺の斧で頭カチ割られたくなかったら、さっさと…」
ファルムルは激昂して言い募りかけ、急に顔色を変えた。
「そ、そ、その剣はッ!?」
風格のある男の腰にさがった剣は、大きな鋸刃をもって赤銅色の模様と飾り文字が刻まれている立派なものだった。『フレンジー』という名刀らしい。
「ま、まさかアンタ、剣術士『ナルザルの双剣』ッ!?」
ザザリックが教えてくれた、あの!?
「やめてくれよ、みっともねェ。でも、パーティの余興ってんなら、手伝ってやるぜ?」
笑って軽口を叩くが、目は笑わない。ファルムルは吃りながら「失礼しまっす」と礼儀正しく言って立ち去った。
「おいおい、もう終わりかよ、ったく。パーティだったらダンスのひとつも踊れってんだ」
パーティだとは誰も言っていないが…。それにクイックサンドで開かれるパーティならもっと上品な気がする。
「お前、ヒヨっ子剣士ってとこか? バカだが、度胸だけはあるようだな。そういう奴は嫌いじゃない。気に入ったぜ」
男の名前はアルディス。やはりあの、アルディスだ。彼はついさっきウルダハに着いたばかりで文無しだと言う。剣術士は廃業して、今は探検家のようなことをしているらしい。
「もっとも探すのは主にカワイコちゃんだがね」
文無しと言ったのに、帰る場所があり、寝床には清潔なシーツと抱き心地のいい女性が揃っているような言いぶりだった。いい仲の女性の家にでも転がり込んでいるのかもしれない。
「『ようこそウルダハ、放埒と享楽の都よ』ってやつだ」
なんの一節なのか知らないが、霊災後のウルダハがそのように謳われているなら本当に復興が順調なのだろう。
にやりとしてアルディスは店を出ていった。
カウンター内にいるモモディに近づくと、「助けてくれてありがとう」と言われた。直前の騒ぎで明らかになったアルディスの名前に、何か思うところがあるようだ。
「てっきり死んだとばかり思ってたわ…」
とても真剣な口調で「お願いがあるの」と私をまっすぐに見て言う。
「ギルドに帰ってミラに会っても、アルディスと出会ったことは、彼女には言わないで」
わけを知りたかったが、「大人の事情ってところかしら。そう、ここはウルダハ。人生が流砂のごとく、入り混じる場所なのよ…」といつもの調子に戻ってはぐらかされてしまった。
剣術士ギルドに戻ったものの、隠し事を持ってしまった感覚で少し後ろめたい。もちろんミラは何も知らない。
「どうだ? 敵視はうまく操れたか?」
無邪気にも聞こえてしまう。
「敵の刃から仲間を守る一歩目だからな。剣術士として、努々忘れるなよ」
これで今回の課題は終了かと思ったら、モモディの依頼は練習に過ぎなかった。クイックサンドで追い払ったファルムルが、今度はスコーピオン交易所で暴れているらしい。
「相手はゴロツキだが、斧術士だ。治安維持のため、剣術士ギルドの名にかけて、きっちりとお灸をすえてこい!」
いよいよ敵視の実戦編だ。
寄り道:Lv3.生物図鑑の上梓に向けて
実戦は怖い。今までは魔物が相手だった。
普段の世界でも言葉で意思疎通できる人と腕力で戦ったことがない。気が進まなくて寄り道をした。架空の世界での行動なのに、少しでもそういう気分になるのが不思議だ。
呪術士ギルドの受付にいるエラスムスの依頼を受ける。西ザナラーンで、マーモットからマーモットの鮮血を検体として集め、届けるという内容だ。交易所と同じ方向で、ちょうどよかった。
呪術は相手を傷つける術なので、生物の生態と構造を熟知していなくてはならない。そのための魔物研究の成果を、将来は「ザナラーン原生物図鑑」にまとめるつもりなのだそうだ。
採取はすぐに終わった。
スコーピオン交易所の出入り口に、怯えた商人が俯いて立っている。
「暴漢に襲われて…チョコボが逃げ出しちまった。追って荷物を取り戻してくれ!」
金槌台地にぽつぽつと、紫色の靄を放つ狙われた荷物が落ちている。それを拾うと突如、疾風怒濤のファルムルが現れた。辛子色のバンダナ風の帽子がトレードマークだ。
こういう戦闘があることは知っていても、自分で対応するのにはまごつく。余裕がなくてスクリーンショットも撮れない。
ファルムルは倒れた。その後どうなったのかはわからない。
斧術士のゴロツキに襲われ、荷運びチョコボから落ちてしまった狙われた商品を二つ、怯えた商人に届けた。
「ありがとう! 助かったぜ。まったく…最近は物騒になったもんだ」
荷物が戻ったのに怯えた商人は俯いたままだ。今度は治安の悪さに怯えているのかもしれない。
ミラに報告する前に、エラスムスのところへ寄る。「首尾はどうですか?」と問われて、生態研究の材料となるマーモットの鮮血を渡すと、喜んでくれた。
「これで研究もはかどります。『ザナラーン原生物図鑑』の上梓に向けて、がんばりたいとおもいます!」
ささやかですが、とエラスムスはラセットブラウンのアイパッチをくれた。
怪我も病気もないのに眼帯をつけるなんて初めてだ。
剣術士ギルドに戻ってミラに報告した。
「よーし、よく生きて帰ってきたな! まずは第一試練、合格というところか…」
嬉しそうで、「なかなか見込みがあるようだ」と微笑む。
「私はギルドマスターとして、これからお前に幾つもの試練を課すだろう。その戦いを通じて、お前に覚えてもらいたいことは、ただひとつのみ。それは剣こそが最強だということだ!」
普段の世界の私は大抵懐疑的だが、この世界では素直に相手の空気に呑まれても大した問題にはならない。
「再び試練を与えるまで、もう少し自己修練を積むがいい。楽しみにしているぞ」
ミラは胴につけるカスタムキュイラスという防具をくれた。布でない材料でできた、いかにも戦闘用という装備である。まだララフェルトップブーツを履いたままなので、垢抜けないが、見た目だけはそれなりになった気がする。
次はどんな得物の敵を相手にするんでしょうね…。ちょうどGLA Lv7になったところ。